いつかはこの日が来ることはわかっていたつもりですが、この日になるとは思っておらず、覚悟ができていなかった。
令和5年5月6日、飼っている3匹のネコの中で最も若いさび猫「ちぃ」が、11歳11ヶ月で虹の橋へと行ってしまいました。
<前兆>
昨年(2022年)11月頃から「ちぃ」が2階の寝室に上がってこなくなりました。これまでは私が2階に居るときは、夜寝るときだけでなくそばに居たのに。我が家の作りは、2階とはいえ途中に中2階があるのでほぼ3階に近い高さ(長さ)になっています。後に病気が発覚してからは、体が辛くて上がってこなくなっていたことがわかりますが、しばらくの間、気がついていませんでした。
「ちぃ」は、昼間の居場所も自分で独自に探し出して「マイブーム」を作るコでした。暑い時期はエアコンの風を避けてクローゼットの中に入ってみたり、テレビの下のHDDレコーダーの上でこちらを見ていたりと他のコがやらないことをしました。冬はコタツなどもありますから夜の間もどこかで「マイブーム」があるにちがいない、そのくらいにしか考えてなかったのです。
年末年始頃は、妙に太っていました。体の大きさは変わらないのに重くなり、堅太りでした。元気はあるし、食事の量も増えてはいなかったのです。
2月上旬、気がつくと今度は痩せています。トイレシートが給水の限界を超えてあふれていることがある。シートの交換は1週間に1回でよかったのに、トイレは3つあるので用を足すトイレが偏ったかな?
2月11日。台所のカウンターに置いている水飲み器の前から離れなくなっています。トイレシートの件は、水をたくさん飲むからだ。なんだか元気もなく、妻が言うには息が荒い気がする。病院へ連れて行かないといけない。
糖尿病、心臓肥大、胸水が貯まっているとのこと。息が苦しそうなのは、胸に水がたまっているために心臓や肺が圧迫されているため。食欲があるのに痩せていたり、元気が無いように見えるのは、糖尿病で食べたものがエネルギーになっていないらしく、多飲多尿も糖尿病が原因のようでした。
一番の問題は、胸水。最初の診察当日は利尿剤を飲ませて尿と一緒に排泄させる治療でした。
2日後、再度診察を受け、利尿剤を飲んだだけでは胸水があまり抜けていなかったため、注射によって水を抜いてもらいました。胸の圧迫が和らいで、多少楽になったようでした。眼の光が強くなった気がしました。
利尿剤を続けながら今度は糖尿病の治療にインシュリン注射を始めました。毎食後に注射する必要があり私が注射することになりました。
注射の仕方を教わり、模型を相手に練習を行いました。
「ちぃ」がご飯を食べているときの食事に集中しているすきに、首の後ろの皮膚をつまんで注射するのです。最初は注射器の目盛のひとつ分の量から慣れさせていきます。何度か病院に通いつつ最大で目盛4つ分にまで薬剤の量が増えました。「ちぃ」の体重から算出する適正な薬量は、目盛4つでは多すぎるくらいの量だそうですが、血糖の数値はあまり下がりませんでした。
食事の量はかなり増えました。今まで食べさせていた量の2倍弱にして与えていました。自分のご飯を食べてから他のコの分まで食べに行きます。
<奇行>
病気が見つかった頃から、これまでは見られなかったおかしな行動が見られるようになりました。
まずは前述のとおり水飲み器の前から離れなくなりました。糖尿病で多飲多尿と診断されたので喉が乾いて仕方ないのだろうと納得できました。
リビングのテーブルの上に登り新聞紙の上に乗り長時間を過ごすようになりました。
これまでも短時間いることはありましたが、これほど長時間とどまるのは珍しかったのです。人間が食事をするときにはテーブルに登らせないようにしていたので、ネコたちも心得ていたはずなのに。
一番理解に困る行動が台所の流し、シンクに居座ることです。
2月3月の寒い時期なのに、冷たい水が体にかかっても平気な様子。体が熱かったのか、シンクの冷たさが気持ちよかったのかもしれません。
シンクを使うときに邪魔なので、抱えて下へおろすと、ムキになったようにすぐに上に飛び上がり抗議します。
2・3度下ろしてはジャンプするのを繰り返すと、カウンターの向こう側に回ってシンクに入ってこようとします。何がここまでシンクに惹かれるものがあるのか、不思議でした。
風呂場でもお湯をためる前の浴槽を洗うときに中に入るようになりました。
昔から風呂場は好きなコでした。泡だらけになっている浴槽にも平気で降り、泡を洗い流す水で手足や体がぬれても意に介さない、水がきれいになってくると水を飲み始めます。
のどが渇いての行動ともとれない。水への執着なのでしょうか。
おしっこもかなりの量でした。1週間使えるトイレシートが2日で取り換えなければならないくらいです。利尿剤も朝夕2回飲んでいるし、水を飲む量が多いので仕方がありません。
これまでトイレ以外の場所で粗相をしたことは一度もなかったコが、トイレに到達できなくなって、3回ほど失敗しました。しかも毎回大量。
そこで、食事の後1・2時間経ったタイミングで、トイレに連れて行くようにしました。昔からなんとなくトイレに行きたくなりそうなのがわかるのです。
トイレの入り口付近まで連れて行くと、おもしろいことに自分からトイレの中に入っていくのです。
そのため最近は、失敗することもなくっていたところでした。
<令和5年5月4日>
昼間、最近はあまり上っていなかったと記憶していましたが、キャットタワーの中段に登り、外の景色を眺めているようでした。
レースのカーテンを少し開けて外がよく見えるようにしてやりました。
今度はそこが「マイブーム」なんだろう、と思っていました。
<令和5年5月5日>
夕食後、私はマッサージチェアの上でくつろぎながら、タブレットでネットを見ていました。
仮面ライダー555(ファイズ)の映画の続編制作決定か、今日は5・5・5の日だなぁ、などとぼーっと考えているときでした。ふと水飲み器の前にいた「ちぃ」と目が合いました。「ちぃ」は「ワァ」とひと言鳴いてトコトコと私のお腹の上にやってきました。
私はそろそろ立ち上がって風呂を沸かしてこようと思っていたところでしたが、せっかく「ちぃ」が甘えに来たところなので、風呂場へ行くのを延期し、しばらく時間をとりました。
このマッサージチェアの上でこの体勢で私にべったり甘えるなんてことは、いつものことですが、ここしばらくは体調が悪かったのか、こうしていることもなかったな。
※この動画は2021年12月撮影です。
後にこれが最後の夜だったとわかってからは、このとき風呂を沸かすのを後回しにして、しばらくなでてやっていて本当に良かったと思ったのでした。
私は「ちぃ」をかかえて立ち上がり、そのままトイレに連れて行きました。トイレの前まで行くといつもどおり自分で入っていきました。
そのすきに私はトイレの隣の風呂場で浴槽を洗い始めました。
洗剤で浴槽の中を洗い終わる頃、磨りガラスの扉の向こうから黒い影が濃くなり、トイレが終わった「ちぃ」が扉を自分で押して入ってきました。
早く洗剤を流さないと泡があろうと構わずに浴槽の中に「ちぃ」が降りてしまう。
風呂のふちに登って降りようとする「ちぃ」を左手で遮って降りないようにしながら掃除を続けます。
泡が流れきった頃、降りることを許します。
手足がビチャビチャと濡れても平気です。
流れてくる水やお湯を飲むのが終わるのを待って、風呂にフタをします。半分フタをしたらその上に「ちぃ」を乗せ、もう半分のフタをして風呂の栓をします。
その後は「ちぃ」はそのフタの上で、風呂が沸いて私が入ってくるまで待っています。
この日はやはり体がしんどかったのか、フタの上で寝そべっていました。
「ちぃ」の居ない方の蓋を開けて浴槽に入りました。元気な頃ならフタの上で狛犬のように座ってわたしの方を見ていたのものですが、寝転んだままで私を見ていました。
ここ何日かはお風呂にも来ていなかったのに、トイレに連れてこられたついでの行動と思い込んでいましたが、後日考えると最後に(最後が分かっていたかは分かりませんが)いつもの行動をなぞっていたのかもしれない。
前日にキャットタワーから外を眺めていたのも、自分の眺めていた景色を焼き付けていたのかもしれないと思うと切ないです。